紅ブログ
「二藍染め体験」~藍と紅を重ねて染める~ を開催しました
藍染工房「壺草苑(こそうえん)」の工房長 村田徳行氏を講師に迎え、「二藍」染めを体験する講座を2025年10月25日に開催しました。
壺草苑は、大正8年(1919)に青梅にて創業した村田染工株式会社の一部門として、平成元年(1989)に開苑されました。化学薬品を一切使わず、自然界からとれる原料のみを用いる「天然藍灰汁醗酵建て(てんねんあいあくはっこうだて)」という伝統的な藍染め技法で、さまざまな藍染めの製品を制作しています。壺草苑(村田染工)も伊勢半も東京都の「江戸東京きらりプロジェクト」のモデル事業者に選定されたご縁から、今回、藍と紅のコラボレーション講座の開催となりました。
紅は、藍と縁が深い染料です。「紅」という漢字は「くれない」とも読みますが、平安時代中期に作られた『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』では、「紅」のことを「呉藍」と表記されています。中国にあった「呉(ご)」の国から伝来した「藍(=染料)」を意味する漢字を、訓読みして「くれのあい」、それが縮まり「くれない」となったと言われています。紅花の花びらから採れる染料の紅は、公家や武家の女性の着物の染色などに使われました。
そして赤い紅(呉藍)と青い藍と重ねた「二藍(ふたあい)」は、平安時代、男性貴族の夏の日常着「直衣(のうし)」などに使われたそうで、『枕草子』や『源氏物語』にも登場します。紅と藍の割合は着る人の年齢によって違い、若い人ほど華やかな紅を強めにし、歳をとると藍の割合を多くして青みを強くしたそうです。
今回の講座では、素材による発色の違いも観察できるように、綿(植物性繊維)と絹(動物性繊維)のハンカチを用意しました。そして藍と紅の重ね方は、参加者が自由に行っていただけるため、「二藍」の色がどのように布の上に表現されるかをそれぞれにお楽しみいただける体験講座となりました。

講師にお招きした村田徳行先生は、1985年に家業の村田染工株式会社に入社し、その後、江戸時代に青梅で生産され人気を集めるも幻の名品となっていた織物・青梅嶋(おうめじま)に感銘を受けて藍染めの道に入られました。徳島に赴いて修業を積まれたのち壺草苑を開苑。以来、日本のみならず、ドイツやカナダなど海外でも作品が展示されてきたほか、数々の賞を受賞されています。この度は村田染工の代表取締役、村田敏行様とともにご教授いただきました。

はじめに、自然界から採れる染料のお話と藍の知識が深まるお話を伺いました。
まず、紫が採れる希少な植物や貝、黄色を染める黄肌(黄檗)や赤色に染める茜など、自然界から得られる「染色の原料」の紹介がありました。これらの材料には、保温や殺菌といった、薬として効果を発揮するものもあったそうです。染めて纏うことは、一見、ファッション性や権威を象徴するような視覚的な色の影響力を求めるようでありながら、実利として着用すること自体が身を守る薬といった面も持っていたのだと教えてくださいました。
約3000年前にインド辺りで生まれたとされる藍もしかり。虫よけとして大切なものを藍染めの布でくるんだり、殺菌効果を求め夜具を藍で染めたり、耐燃性が高いということで火消しの半纏に用いられたり、染めることで繊維が丈夫になるため労働者の衣服や漁網などに使用したり…聞いているだけでもその広範囲かつ多岐にわたる様々な恩恵に驚かされました。

続いて、まさに江戸の粋、江戸時代のお洒落着として一目置かれていた「青梅嶋」について、今3反のみが残っていること、復活させようと取り組んだことを伺いました。この取り組みを始めたことで、藍染めの原料づくりをしている徳島に赴かれたこと、現在の生産量のお話、日本で育てられている藍の葉と欧米・インド・東南アジアの違いを、実物の資料を拝見しながらお聞きする充実度満点な機会となりました。

講義パートの最後は、藍の染料の素「すくも」作りから藍染めの工程です。藍の葉を収穫してから乾燥させ、寝床(ねどこ)と呼ばれる保温効果のある蔵で、水打ちしながら発酵。常に温度に気を配りつつ熟成させて100日と少しかけて「すくも」を作ります。見た目は黒っぽい乾燥した土の塊のようです。
台風の通り道となる徳島県では、江戸時代、藩の政策として米の栽培よりも台風が来る前に収穫の出来る藍が盛んに栽培されていたそうです。大雨によって起こる川の氾濫は、人々を困らせる災害でしたが、図らずも藍の収穫後の畑に栄養を運んで肥沃な土壌を作り、藍の連作を可能にする面も併せ持っていたそうです。

壺草苑では、年々稀少になりつつあるこの天然藍を用いて、化学薬品を全く使用せずに日本古来の方法で藍の染液を作っています。灰汁醗酵建てについても、順を追って写真を見せていただきながら解説くださいました。石灰やふすま(小麦の外皮)といった工程で登場する材料を回覧していただいたり、藍を建てる(染められる状態にする)時に起こる状態についても、匂いや泡が出たり、粘りが出たり、色の変化が起こったりとイメージの沸くようなお話や、藍の染液がたくさんの布を染めて疲れたら日本酒や水あめなど栄養源となるものを加えるお話もあり、藍に対してどんどん愛着がわいてくるエピソードを聞かせていただきました。
ここで、いよいよ染めのパートです。初めに行うのは、今回のために仕込んできてくださった元気な藍で藍染めです。蓋を開けると会場中から歓声が!表面には「藍の花」と呼ばれる泡が浮かんでいますが、泡の状態や、香り、粘り、味、混ぜた時の色などで醗酵具合を見ているのだそうです。

村田工房長のデモンストレーションで、秒を数えながら広げたハンカチをゆっくりと甕に浸けていくと、グラデーションに染まりました。濃く染めた方が色のムラが出にくいのですが、今回は重ねる紅の色も出るようにやや薄めです。

参加者の皆さんは、ハンカチのどの部分を染めるか仕上がりを思い浮かべながら、水で濡らします。思い思いにハンカチを折りたたんだり、縛ったりする参加者もいらっしゃいました。染液が薄まらないようによく絞って…藍甕に浸けます。

少し時間をおいて、好みの染まり具合で引き上げて空気にさらすと、すこし茶色っぽいようにも見えます。染液の中にあったすくもの色素が、徐々に酸化して黄色味を帯びた青になってきました。これを、バケツに汲んであった水で濯ぐと、青色が鮮やかに見えてきます!
水を変えながら濯ぎ、よく絞って広げると、それぞれ、濃い青から淡い水色まで様々です。皆さん入れ替わりながら順番に染めていきましたが、順番待ちの時間も期待感でワクワクしているのが伝わってきました。今回はハンカチの素材が2種類ありますので、綿で一巡したら絹も染めていきます。
藍染めの後は紅染めのターン。当館スタッフが、夏に花が咲くためドライフラワーにしてとってある最上(もがみ)紅花や、染液の素となる紅餅(=摘み取った紅花の花びらを酸化発酵して煎餅状に乾燥させたもの)をお見せしながら紅染めの手順を紹介していきました。紅染めの染液は、講座が始まる前にスタッフ達でぎゅうぎゅう紅餅を揉み、ハンカチが良く染まるよう赤色色素を抽出しておいたものです。

藍染めを施したハンカチを、ボールの紅の染液に浸しグループごとに4人が順番に染めていきます。ここでも、ハンカチ全体を染めるか、一部を染めるかなど、頭を悩ませ、たっぷり時間をかけて液が浸透するように揺らしたり、短めにしたりと思い思いに作業を進めます。

藍染めの時も、染めたてそのままの色と、ハンカチを水で濯いだ後の色に違いがありましたが、同じように紅染めも、やや黄色味を帯びていた染め部分の色が、水で濯いで鮮やかな発色になりました。ここで植物性繊維の綿と動物性繊維の絹の2素材を用意した面白さを観察できます。赤色色素はどちらの素材もハンカチに吸着されて留まるのに対して、黄色色素に差が!!綿は濯ぐと水に流れ出ていき、絹は黄色も吸着して綿ほどには水に流れ出ていかないため、絹の紅染めの方が黄味を帯びた紅色発色になるのです。そうして藍の濃淡と重なって自分だけの二藍の色が現れます。


左は綿で、右は絹の素材です。グラデーションが美しい参加者の方の二藍染め完成品です。
後半怒涛のスピードで染めに取り組んだ参加者に一体感が生まれ、広げたハンカチに「かわいい」「夕焼けみたい」など溌溂とした声が会場中に響き、一緒に駆け抜けた仲間たちと完成を喜び合う嬉しそうな笑顔をたくさん見ることが出来ました。
紅ミュージアムにとってもチャレンジの多い二藍染めの講座で、染めの世界の奥深さを改めて感じるものとなりました。
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