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畑萬陶苑2





地域に呼び込む企画を続々と提案、四季折々に祭りなど、年間を通じて来ると楽しい地域に!

大川内町は山間にある「秘窯の里」です。かつては技を守るための好立地でしたが、現代では課題と感じることもあるそうです。多くの人に訪れて貰うための取り組みについてうかがいました。

(畑石さん)伝統を継承し、品質のよいものが作れるからと言って、購入者がいなければ物は売れません。安売りをすれば人が集まって売れるというものでもありません。いかに知名度を上げて流動人口を増やすかということを考えて、様々な取り組みを仕掛けました。

その一つには、伊万里鍋島焼協同組合が毎年行なって35年になる「鍋島献上の儀」があります。かつて鍋島藩が将軍に献上し、大名に贈ったような伊万里鍋島焼の装飾豊かな瓶子(へいし)を制作し、全国の名城所在地に献上するというものです。今いる場所でいくら宣伝しても、広がりには限界がありますが、各地域に足を運ぶことによって、そして作品を、お城やその地の資料館に飾っていただけることによって、その周辺にお住いの方に知ってもらえる機会が生まれます。姫路城など国宝級のお城には、ほぼ納めており、昨年は、大阪城(のある大阪市)へ贈りました。

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2022年に会津若松城へ献上した「色絵桜樹文立葵瓶子(いろえおうじゅもんたちあおいへいし)」。画像提供:畑萬陶苑

2024年2月には、タイ国へ訪問し王室に献上。2025年に伊万里開窯350周年を迎えるにあたっての特別なプロモーション活動だったそうで、瓶子中央の表裏には、タイ国の象徴である「象と水連の花」と、日本国の象徴である「富士山に桜の花」、下部には海を表す青海波紋をあしらった両国の友好を願うデザインが描かれたそうです。

この献上の儀は、情報発信やマスコミへの話題提供だけではなく、献上品の制作自体も伝統や技法を後世に伝えていくという面で非常に意味があるものとなっています。

(畑石さん)かつては、地域共同の薪窯(まきがま)を使って焼いていました。その後、燃料革命が起こり、石炭、重油、灯油、軽油などを用いる登り窯風の油窯(あぶらがま)が昭和時代頃まで使われてきました。しかし、耐火煉瓦を積み重ねて焼くのでは、洋風の窯と同じ理屈でありながら、徐々に時代に合ったものづくりが難しくなってきてしまい、畑萬陶苑では、25年ほど前、平成に入ってからガス窯へと変革していきました。煙突があちらこちらに見えますが、主流はガス窯に移行されています。

しかし、献上品は、昔ながらに焼くことも「価値」として考え、登り窯で焼いています。登り窯で焼くのも技術。保存会を立ち上げて、なるべく若手に関わってもらうようにしています。昔の人の焚く苦労を話そうにも、体験しないと話すことができない。実際に大変さを体験して知っておくことは大切です。

登り窯は火入れから丸2日間にわたり昼夜通して焚き続けられます。気温や湿度などの気候環境はその時々で違うため、焚きはじめに窯の温度を上げていったり、薪を追加したりする見極めも名窯を守る職人達の経験と勘が頼りです。献上の儀は、歴史と今を繋げる大きな役割を担っているのです。本年、献上の35年の歩みをたどる展覧会が、東京、大阪、佐賀で計画されているそうです。

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畑石さん。大川内山の窯元でつくる伊万里鍋島焼協同組合の代表理事も務める。

続いて、大川内町で行なわれている催しについてもうかがいました。

(畑石さん)日本の四季折々に合わせたお祭りなどを、ここでは年間を通して企画しています。2月から3月上旬は「磁器ひいなまつり」、4月は桜まつり、5月は「伊万里窯元市」。有田や長崎などもひっくるめてこの時期に蔵さらいがあります。夏には、「風鈴まつり」を開催、11月は「鍋島藩窯秋祭り」(窯元市)、11月~12月はクリスマスの飾りつけを行なっています。ここは自然が売りの地域でもありますので、夏には川の方も整備して、子どもが遊べるように、足を運んでもらってみんなで楽しめる地域になるようにしています。

いつも自然がきれいに感じられるように、草刈りを欠かさないそう。公園には、次の世代が足を運んでくれるような桜の名所にしようと植樹もすすめているそうです。

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大川内町の自然風景。画像提供:畑萬陶苑

工芸と工業の狭間で新たな表現を展開、ほかのどこにもない畑萬陶苑だから生み出せるもの

畑萬陶苑製の商品には、鍋島青磁の表現を応用したMoistシリーズや水を弾いた様な表現のTextureシリーズ、見た目も手触りもまるで革細工のようなCuirシリーズなど斬新なものが数多見られます。工芸と工業の狭間で新たな表現を展開していくフロンティア精神についてうかがいました。

(畑石さん)自社商品の開発だけでなく、デザイナーや企業とのコラボレーション、レストランシェフとの特別な取り組み、海外への出展など、様々な事業を展開していますが、事業の安定や成長を考える時に、「産業」、「伝統」、「芸術」という相互に影響しあう三つのパターンが重なりあっているととらえています。「産業」は、商品の販売によって新たなファンを開拓していくこと、そして商品の製造は新たな技術者を育てる手段となります。将来的には、技術を磨き経験を重ねて「伝統」に携われる者を育てることになります。また、「芸術」は、オリジナリティのあるもの、オンリーワンを目指すものです。「芸術」も、積み重ねていくことによって将来「伝統」になっていく。ここで言う「芸術」とは、産地に伝わるデザインではありません。畑萬の独特のデザイン。それが、これからの畑萬陶苑の物語を作っていく手段だと考えています。

「まさに、革」という有機的に感じられる質感を特徴とするCuirシリーズの開発には、5年かかったそうです。色絵付けを施す磁器制作では、2回から4回程の焼き付けが一般的ながら、本シリーズは、革のような表現を出すためだけでも6回、全体で通常の倍以上となる8回も窯に入れて色絵付けを行うそう。

(畑石さん)特別な絵具で、特別な温度で焼く。ずっと足し算引き算を繰り返して、時にはひと窯全滅したこともありました。さんざん言われました。でも諦めませんでした。

芸術だけれど飾るものではなく、日常生活の中で使用し、洗える革。ほかのどこにもない畑萬陶苑だから生み出せた軽くて滑りにくい商品です。不思議な触感をお客様に実際に触って感じていただきたいそうです。

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Cuirシリーズ。画像提供:畑萬陶苑
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Cuirシリーズ。画像提供:畑萬陶苑

失敗をするかもしれない、でもチャレンジして、地域の先頭をきって引っ張っていく畑萬陶苑でありたい

10年、20年後の未来、この先に思い描いていることを教えていただきました。

(畑石さん)この先も「地域と共に…」と考えています。これまで、この地域は「伊万里鍋島焼」として売り出してきましたが、歴史上は、鍋島焼も有田焼も総称して「伊万里」と言っていたり、鍋島というと想像する窯元があったり、定義づけがはっきりしていませんでした。今年迎える開窯350年を契機に、鍋島藩窯としての高い技術を継承してきた地域であるので、「この大川内山の地域で作られたもの」を「鍋島焼」と定義づけして価値をプラスしていこうとしています。個々には有田様式を作っているところもあり、唐津焼を作っているところもあります。けれども、献上品を作ってきた歴史ある地ならではの高価値なものを、それぞれきっちり作っていきましょうと話しています。そしてこの先、地域自体をバージョンアップしていく必要があると思っています。ぜひ若い人に頑張っていって欲しいです。

大川内町は、様式の違いはあっても、それぞれ妥協のないものづくりをしていこうと地域一丸となっています。

「鍋島焼」と聞いた瞬間に、自然が豊かな由緒ある地域で、確かな技術を基に作られた作品、そして日本的美的感覚をうまく現代に融合させて品格のあるものづくりをする産地が、国内でも海外でも思い浮かぶようになるのはそう遠くないように思います。

最後に、畑萬陶苑に望む未来の姿も、語ってくださいました。

(畑石さん)地域全体が、レベルアップしていくには、使う側の価値観が変化していっていますので、作る側も、昔のままではいけません。昔ながらは継承とは言えず、使う側の食文化、生活空間にあったものをどう今後作っていくか、時代にあったものづくりが継承なのです。しかしそうは言っても、デザイン感覚がないと難しい。失敗を恐れ昔のままでいいと避けがちになる人もいるでしょう。そこに、いかに刺激を与えるかです。失敗をするかもしれない、でもチャレンジして、地域の先頭を切って引っ張っていく畑萬でありたい。そう考えています。失敗することも含めて先を行く。そうして、「こうしたら、できるよ」と前例があるとしやすくなるのです。

どのようにしたら上手くいくのか、その方法を手探りで切り開き、先導してきた四代目の畑石さん。その姿を見て育った後継者の息子さん達や更に先の未来を担う次世代へ、想いは受け継がれていくと感じました。

小町紅も、江戸時代の製法を継承し、品質の高さにこだわり、製品づくりを続けています。伝統を守りつつ、現代にどうマッチさせていくか、もっと革新的でいるために何をすべきか、指針となるエールをいただきました。

(畑石さん)私達の商品もそうなのですが、持っているだけでも「価値」があると思っていただけるよう、応援者を一所懸命つくる、そして、応援者を飽きさせないようにする。「面白いね」と思ってもらえるよう懸命になってください。自分達の考え方に賛同してもらい、そして相手の方の話を聞き、想いに賛同する。そこから生まれた縁は、また次の縁を呼び込み繋がって今に至っていると感じています。

作品展示会に伺うと畑萬作品・商品をお持ちのお客様が、どんなところが素晴らしいか、いかに魅了されるか語りあう様子をたびたび拝見します。細部までこだわりを持ち、技を尽くして作られたことが伝わっているからこそ一所懸命応援したくなるのだと思います。小町紅も誰かに伝えたくなるような商品の魅力をこの先も発信し、そして面白いと感じていただけるよう努力しなければなりません。紅づくりを続け200年。この先も伊勢半の小町紅に欠かせない紅器制作で支えてくださる畑萬陶苑様のご縁を大切にしながら真摯に紅づくり続けて参ります。

貴重なお話を聞かせてくださった畑石様、この度はありがとうございました。

(紅ミュージアムの縁人:畑萬陶苑1へ戻る)







畑萬陶苑 Information


【Information】

■展覧会

令和8年(2026)7月1日~7日(1週間) 京王プラザにて畑萬陶苑100周年の集大成となる作品展を開催予定

■ショップ

畑萬陶苑 ギャラリーショップ

https://shop.hataman.jp/

〒848-0025 佐賀県伊万里市大川内町乙1820

営業時間: 9:00-17:00/定休日: 元日を除き年中無休

畑萬陶苑の製造工場及びショールームを備えた直営店。

製作工房の見学コースもある。絵付け室では、和紙に桐の木炭で描いた絵を、器へ擦って写し取る下絵の前の段階から、濃み(だみ)、絵付けの作業が見られる。

また、赤絵付けの部屋では、細い筆で針の先で描くような繊細な絵付けの作業を行なっている。

工房を公開している窯元は限られるため、近年、海外からのお客様も増えるなかで、英語による見学コースは人気となっている。